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「相変わらず気が逸り、言葉が追い付かぬか、洸姫。ゆるりと考え話せばよい」
「あ、うん……」
「三つ子の魂百までとはよく言ったものである。小さな洸姫はいつもいつもあのねと言い、言葉が続かぬ。その度に天彦が代弁をしていた」
「……そうなんだ」
「兎も角、中へ」
再度促されて歩き出そうとしたら、だ。
門のところに私の茶色いブーツをそれぞれ両手で持った兄が鼻息荒くこちらを睨み付けていた。
「父上! その者は洸姫にあらず!」
大きく大きく真っ白い息を吐き出した父親は、兄に視線を向ける。
すると兄は手にしていたブーツを野球のボールを投げる勢いで私の背後の坂へと投げた。
「なっ、なにしてくれてんのよ!」
「黙れ! さっさと消えてしまえ! 死ね!」
段々と幼稚になる兄の言動に私は肩を落とす。
いや、私も悪かったと思ってる。でもこれってさ、どうなの。
わざわざ追い出しといて、ご丁寧にブーツを持って来てくれたわけ?
私はわざとらしく首をがっくりと折ってから、父親の袖を引いた。
「ブーツ回収したら、中へ戻ります……。寒いので、先に中に行ってください……」
このまま父親がいても兄に油を注ぐだけなので、私は父親の背中を押して、それからブーツを回収すべく坂の方へと歩く。
背後では兄が父親にぶつくさ言っていたけど、父親は寒さでお互いこれで頭が冷えただろうと言って私のお願い通りに玄関へと向かう。
後ろ姿を確認してから私は坂へと降りる。
ブーツは結構下まで落ちていてうんざりした。
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