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どうして、急にそんな顔をしたりするのよ……。
彼を責め立ててしまったみたいにも思えて、居心地が悪くなる。
「…………。」
「……君も、喰えないよね」
私が何も言えずに黙り込んでいると、彼がそう口にしてフッと小さく微笑った。
「喰えないって……?」
そんな風に言われる意味が、まるでわからなかった。
「俺が悪い男だと思ってるのなら、最初から付き合わなければよかったのに」
「……え、」
彼から突きつけられた当然と言えば当然のセリフに、声が詰まる。
「それでも付き合っておいて、よく言うよね」
彼は苦い表情で眉根を寄せて、そう言うと、
「……紗耶ちゃん」
ふっとまた強張っていた表情を崩して、なだめすかすかのように妙に優しく私の名前を呼んだ。
軽く笑っているその顔は、いつも通りの感情が読み取れないものに戻っていて、一瞬でも垣間見えたようにも思えた彼の本心は、スッとまたなりをひそめてしまっていた──。
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