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「ひさしぶりでんな、青山はん。なんやI出版さん、ずいぶん調子いいみたいでんな」
「いやいや、ぜんぜん」
そういって青山は大げさに両手を振る。
「U文芸さんこそ、部数かなり伸ばしてるって話じゃないですか」
「なに言います、かろうじてですわ。それもこれも宮田先生のおかげです」
「うちもですよ。先生がいなかったら、とっくに廃刊ですって。ほんと、先生には頭あがらないっすよ」
戻ってきた玲子に顔を向け、青山は言った。
「調子いいことばっかり」
玲子が微笑みながら置いたコーヒーには、氷が浮いていた。青山はぐびりと、ひと口やると天井へむかって、ほーっ、と息を吐く。
玲子はテーブルにトレイを放置したまま、ソファへは戻らずに、自分の机の縁へ寄りかかるように腰を掛けた。すらりとした足首を重ねる。
「で、青山くんはどうしたの。そっちの〆切り、まだ先よね」
「やだなぁ、わかってるくせに」
青山は鞄に手を入れると、ハードカバーの本を差し出した。
「どうぞ。今週末に発売になる単行本です。先生、ずっと東京に戻ってこないから、こんなぎりぎりになっちゃいましたよ」
それを見ても、玲子は黙って微笑んだだけだった。
「ちょっと先生、もっと気合い入れてくださいよ」
「気合いって?」
「新刊イベントとかサイン会とか、もっとやりませんか。昔みたいにガンガン表に出て、ガツガツ売り出しましょう」
玲子は微笑を浮かべたまま黙っている。
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