宮田玲子

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 同一銀行が狙われ続けること、警戒の手薄な場所を的確に突いてくることから、内部の者による手引きがあるのは明らかだった。にもかかわらず、捜査はいっこうに進まない。  週刊誌は書き立てる。 『無能警察! なぜ犯人に迫れない?! 次に狙われる銀行は!?』  国民の不安は警察に向きはじめ、加納たち捜査員は日を追うごとに焦りの色を濃くする。  そんなとき、銀行員のひとりが誤って踏み壊した社用車のリモコンキーから、奇妙な物が見つかった。それをきっかけにして、本店、支店のあちこちから同様の物が発見される。会議室の額縁のなか、花瓶の底、机の中に転がっていた壊れたUSB、社用車の天井の中や警備員の着用する防護ジャケットの裏地にまで、ストレート、L字、キューブ型と対象に合わせた形状の自由基盤と、その上に取り付けられた最低限の電子部品――それは、マイクが拾った音声を特定周波数で飛ばすだけの盗聴器だった。  捜査はいっきに進展する。単純ながらも精緻な作りから専門知識をもつ者なのは間違いない。そして、それらのパーツが複数の通信販売を通じて埼玉の一軒家に流れ込んでいることを掴んだのが、今日の昼のことだった。  捜査本部はただちに突入を指示したが、目前で男の乗ったセダンが飛び出した。車は、先回りしようとするパトカーをあざ笑うかのようにルートを変える。車内に見えるのはドライバーの男だけだというのに、警察が予測する逃走ルートの裏をかいて迷わずに逃走を続けていく。こちらの情報まで捕まれているとしか思えない。どうやって……。  だが、それももう終わりだ。四時間に及ぶ逃走劇だったが、この先で道は途切れている。七台のパトカーに、十人を超える警察官。無理に追い上げず確実に追い詰めればいい。
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