飴を詰まらせて死にたい

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ころんと口内で飴を転がしながら、じっと黄色い目と視線を合わせる。 ──もし、私がこの場所で。この飴を喉に詰まらせて死んだとしたら。あの猫みたいに自由な先輩を縛る事が出来るだろうか。 私だけを見て欲しいと言う浅はかで自分本位な願いを少しだけ実現できるだろうか。 最低な想像が脳内に染み込んで、それしか考えられなくなった。 錠剤を飲み込む様に、飴を喉奥へと転がす。 意を決して飲んだ飴は、思いの外圧迫感が酷くて苦しかった。 錠剤みたいに引っかかってもすぐに落ちていく事もなく。堂々と居座って存在を主張してくる。 喉元を意味もなく両手で押さえて、身体を丸める。 このまま死んでしまいたいと思っているのに、身体は勝手に異物を食道へ運ぼうと蠕動運動を始めた。そのまま飴は私の意思には関係なく、食道を押し開いて、下へ下へと落ちていく。 ぽちゃん、と。 聞こえるはずの無い音が聞こえた気がして、目尻に溜まっていた涙が頬を伝った。 死ぬ事すら出来ない自分が惨めだった。 あれだけ嫌悪していた恋愛をして。せめて綺麗な恋をしようと決めていたのに、それすら出来ない。 情けなくて。痛くて。何より、あの子達と同じ所まで堕ちた自分が気持ち悪かった。 「みゃあ」 腕に当たったふわふわした感触に顔を上げる。 直ぐ近くにあった黄色い目が、ゆっくりと瞬いて。そっと前足を私の膝に乗せてきた。 「慰めてくれるの」 優しいねぇ。と転がり出た声は笑っちゃうくらい震えている。 「……ね、抱っこしても良い?」 そっと伸ばした手を。猫はじっと見つめた後。丸い身体を弾ませて、膝へ飛び乗ってきた。 しっかりと存在感を放つ重量と温もりが心地良い。 ぽたりと、また水滴が頬を滑った。 雨の様に降り注ぐ涙が、猫の毛に弾かれて滑り落ちていく。それに一瞬顔を上げた猫は、ゆったりと目を細めて私のお腹へと顔を擦り付けた。 辛くて苦しいのに、それでも考えてしまうのは先輩の事。 この猫みたいに、私の元へ来てくれやしないかと。あの子じゃなくて、私を隣に置いて、私だけを見てくれないかと。 ふわりと香った甘い匂いは。飴か、それともあの時捨てられたリップクリームか。 「飴じゃ死ねないのは分かってるんだけど、さっき死ねれば良かったのになぁ」 過去に追いつかれた私でも、これ以上汚れないうちに。ほんの少しでもいいから綺麗な所を残したまま死にたいと。そう考えてしまう自分勝手な私は、きっともう手遅れ(あの子達と同じ)なのだ。
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