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べちゃ。
溶かし損ねた青黒い絵の具の塊が、紙の上に落ちた。
白を侵食して広がっていく様は、あの時の女子生徒達の悪意に似ている気がして。衝動的にページを破る。
中学から高校に上がって、彼女達との縁は切れた。もう二度と繋がる事はないと言うのに、彼女達の笑い声が耳元で鼓膜を揺らす度。過去へと強制的に意識を引きずり込まれてしまう。
「破っちゃったんだ。せっかく面白い絵を描いていたのに」
突然肩越しに握り潰した紙を覗き込まれ、肩が跳ねた。
恐る恐る上げた視線が、大きな猫目とかち合って。その目がキュウっと細められた。
「ね、それ何を描いてたの?」
楽し気に踊る瞳が、瞼の隙間から覗いている。
過去に引き摺られて淀んだ絵の何処に面白いと言える要素があるのか。考えた所で、私には見当もつかなくて。
迷った末、沈黙を選んだ私を先輩は見ている。
沈黙を裂いたのは、雨が窓を盛大に打つ音。
目が合った猫がこちらを観察するかのように。じっと、こちらを見下ろしていた興味の矛先が、私から雨へと一瞬で移ったのを感じる。
ぱっと身を翻し、窓へと駆け寄った先輩は「良い雨だ!」と。私には到底分からない事を言って、スケッチブックに何かを描き始めた。
空は重い灰色が広がっていて、辺り一面薄暗い。それなのに先輩の絵に使われているのは、黄色やオレンジなどの明るい色。
もう一度、窓の外を見ても。私にはどうしたって灰色と黒と濁った雨しか見えなかった。それがなんだか虚しくて、呪いじみた青黒い斑点の浮かぶ絵を握り潰す。
紙で指先を切った時みたいな不快さが私を苛む。それを取り除きたくて、乱雑にページを開き、身の丈に合わない明るい色で真っ白なページを汚した。
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