飴を詰まらせて死にたい

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「みゃあ」 塀の上で、先輩とそっくりの毛並みをした猫が私を見下ろしている。 丸くて黄色い瞳に映る世界は、先輩と同じ景色を見ているのだろうか。ふと、そんな事を考えて、温かい黄色を見つめ返す。 「……ねぇ、あなたにはどんな世界が見えているの?」 私の問いかけに短く鳴いて、くるりと踵を返した猫に手を伸ばす。だけど指先が届くより先に、塀の向こう側へと飛び降りてしまった。 今の鳴き声が、こんなものが見えているよと言う回答だったのか。それとも、何の意味もない鳴き声だったのか。私には見当もつかなくて。 暫くの間、もう猫が居ない空っぽになった場所を黙って見つめていた。 それを中断させたのは、さっきまで思考を占めていた先輩の声。 「塀の上に何かあるの?」 好奇心に駆られた瞳はやっぱり、丸くて黄色い目とそっくりで。急に居たたまれなくなって、耳元が熱を持つ。 「…………あ、猫が。さっきまで、そこに居たので」 「なるほど。猫って可愛いし、ずっと見ていたくなるよね。……そうだ! 猫好きならとっておきの場所教えようか?」 私の示した空白の場所を一瞥した後、先輩は名案だと言いたげに手を叩いた。 それにどう返したらいいのか思案した間が、肯定と取られたらしい。行こ行こ! なんて、親しい友人にする様な軽いノリで。どんどん先へと歩いていく。 曲がって、真っすぐ歩いて。また曲がって。十分ほどで辿り着いたのは、ぼろい家の裏側。隠れる様にひっそりとある空き地だった。 「……こんな所があるなんて知りませんでした」 「でしょ。ここオススメだよ。……あ、ほら。あそこ」 何の前触れもなく詰められた距離に首の毛がざわつく。 平然とした顔の先輩を見ていると、意識してるのは私だけだと自覚して恥ずかしくなった。 短く息を吸って、誤魔化す様に咳払いをして。先輩の長くて、意外と太い指の指す方へと視線を向ける。 斑模様の猫とぴったりと身体を寄せる、一回り以上小さいもう一匹の猫が、のんびりと日向ぼっこをしていた。 「気持ちよさそうですね」 「ここ人通りが少ないし、日当たりが良いからね。よく猫が集まるんだ」 絵以外で饒舌な先輩は見た事が無くて。初めて見る先輩の一面に、ほんの少し胸が騒いだ。
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