飴を詰まらせて死にたい

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二人で並んで、空き地に集まった猫達を眺めていた。 流れる雲が太陽を隠す度に、のろのろと移動している猫がいたり。 突然追いかけっこを始める猫がいたり。 二匹で身体を寄せ合って何処かを見ていたり。 ずっと見ていても飽きない、猫達の為だけにある様なこの場所は。不思議と心を穏やかにさせる。 昏い感情の吹き溜まりみたいな過去も、嫌いで仕方がない私自身の事も忘れられそうだった。 時間が経てばくすんでしまうと分かっていても、今だけは。温かい日差しと柔らかい風から漂う土と草の匂い、猫達の楽しそうな声に包まれて。真っ白な私で居たかった。 この幸福な時間が永遠であれと、叶わない願いを抱えながら。訪れるタイムリミットまで、ただひたすら優しい世界に溺れていた。 「…………そろそろ帰ろっか」 シャボン玉が弾ける様に、夢から覚める。立ち上がった先輩につられる様に立ち上がって、現実へと顔を向けた。 「良い所だったでしょ」 先輩にしては珍しく、穏やかな声音と表情をしていて。小さく心臓が跳ねた。 「あ、そうだ。さっき飴買ったんだけどいる?」 「……ありがとうございます。頂きます」 差し出された飴を受け取って、袋を破る。ふわっといちごの甘い匂いがして、それを口に放り込んだ。 「美味しいです」 「これお気に入りなんだよね」 ころころと舌で飴を転がしながら、同じ様に飴を舐めている先輩を盗み見た。 綺麗に染められた茶髪と耳に付けられたシルバーのピアスが、夕焼けに染められて赤く輝いている。 美術部に所属しているなんて思えない派手な容姿。 その容姿は、私の過去を思い起こさせるから苦手だった。 だけどこの早く脈打つ心臓は、あの子達の笑い声を聞いた時みたいな嫌なものじゃなくて。 真っ直ぐな眼差しで絵を描く横顔と。完成した絵を嬉しそうに見るその笑顔。私には見えない世界を見せてくれる、綺麗な色で描かれる美しい絵。 あれだけ恋はしないと言い聞かせてきたのに。 私はいつの間にか先輩を好きになってしまっていた。
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