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がりり。
歯と歯の間で、甘酸っぱいいちご味の飴が砕ける。
飛び散った欠片に何度も歯を立てれば、丸かった飴は粉々になって。それすらも時間が経てば消えてなくなる。
先輩から貰ったものと同じ飴を買った時は、何だか特別なものに思えたのに。今はただ、虚しさと苛立ちが増すだけだ。それでも口寂しくて、結局口にしてしまう。
先輩を好きだと自覚して。私の無彩色だった世界に色が付いた。
ピンクやオレンジ、黄色。柔らかくて優しい色に溢れていて、ありきたりだけど、毎日が輝いていた。
何時までも首を絞めてくる過去も嫌悪感のあった恋愛も、少しずつ癒えていって。
あぁ、私はこれでやっと汚いものから解放されるのだと。人並みに恋が出来る様になったのだと。そう思っていた。淡い色彩に浸って、先輩とお揃いの飴に、幸せを感じられていた。
がりっ。
視線の先にいるのは先輩と数日前に転部してきた一年生の女子生徒。彼女の描いた歪な線の塊を見ている先輩は、何故か楽しそうに笑っていて。
いつの間にかべったりと付いていた黒い絵の具が乾いて。ぱらぱらと剥がれ、肺へと落ちていく。血液と混ざって溶けた黒が、心臓から全身へと流れて行くのを感じた。
髪の先から手足の先まで。せっかく浮かび上がっていた綺麗な色を押し流し、黒一色に染めていく。
もしかしたら口内で砕け散ったイチゴの飴も、真っ黒になっているのではないか。
そう考えた途端怖くなって、慌てて飲み込んだ。
食道へと転がる大小様々な飴の破片が、喉と胸を傷付けて。そこがじくじくと痛みを訴えてくる。
この耐えがたい痛みに名前が付く事が怖かったから、必死に飴のせいだと言い聞かせた。
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