飴を詰まらせて死にたい

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水分を含み過ぎた絵の具が筆から滑り落ちて、跳ねる。 そのままじわりと広がって、元々あったピンク色を呑みこんで淀んでいった。 ぽたりぽたり。 一定の間隔で落ちる雫は、涙みたいだったけれど、汚い私にぴったりの泥の様な色をしている。 「先輩、質問しても良いですか?」 少し低い、聞き取りやすいその声が呼ぶ先輩が、自分であると認識するまでに時間がかかって。その間にも筆先が黒い雫を落として、広がっていく。 「……何?」 意図せず平坦な声が出てしまった。 「あ、邪魔してしまってすみません。後で大丈夫なので!!」 嫌な印象をこの子に残すのが怖くて、くっと口角を上げて笑った。 「ごめんごめん。ぼーっとしてただけだから気にしないで。聞きたい事って何? 私が教えられる事なら教えるよ」 ワザとらしくないくらいに声を高くして。他意は無いのだと、ましてや敵意など欠片も無いのだとアピールする。 それが功を成したのかは分からないが、後輩は安心した様に笑ってスケッチブックを見せてくる。 「何度描いても立体的にならないんです。他の先輩に聞いたら、目に映ったモノを感じたままに描けばいいんだって教えてもらったんですけど、よくわからなくて」 私と違って、丁寧にケアされた小さな唇から飛び出したが、きっと彼の事だと想像がついて。無意識に下がった腕のせいで筆が絵についた。 勢いよく浸食しだす汚れに抗う様に、僅かに残ったピンク色の上に布巾を置く。 「……あー。先輩は天才って言うのかな。見たままのモノを自分のフィルターで独自解釈して描いてる感覚タイプだから、説明は分かりにくいよね」 「そうなんですね! でも、絵を描くのが大好きなんだってこっちまで伝わって来る所、凄いなって思っているんです。沢山努力もしるし、尊敬してます!」 布巾の下で汚れが残ったピンク色を呑みこんでいく。 悪意何て微塵もなさそうな笑顔を見ながら、ぐっと更に強く布巾を紙に押し付けた。
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