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「やっとですね。開店を心待ちにしていました」
「土岐さん! いらっしゃいませ! あの時は本当にお世話になりました!」
「いえいえ。普段の配信がこんな風に役に立つとは思いませんでした。それに、なんだかスカっとしましたね! 気分が良いです」
小夜歌は楽しそうに笑って、壁側の中央の席に座った。
コレットが小夜歌の注文を聞いている間に、再び来店のベルが鳴ったので悠が出迎えると、そこには帽子とマスクで変装した流星と澪が立っていた。
「よぉ、悠!」
「やっとここのマカロニグラタンが食べられるのね。お腹空かせて来たよ!」
「ふたりとも、あの時は……」
頭を下げようとする悠を流星と澪は手で制止した。
「何回俺らに頭を下げるつもりだよ。俺たちは純粋にここの料理を楽しみに来たんだ。もう気にするな」
「そうそう。それに私かなり食べる予定だから、すごく忙しくなるけどごめんね!」
それがふたりなりの気遣いだとわかって、悠はもう一度だけ感謝を伝えた。
すると、ふたりは顔を見合わせて、神妙な面持ちになった。
「その……コレットさんとはどうだ?」
「うん? どうって」
「一度別れたんでしょう? でも大丈夫、コレットさんはいまも悠のことが大好きだからね! 勇気を出してもう一度告白してね!」
「何かあれば協力するからな!」
ふたりはぽんっと悠の肩を叩いてから、空いている壁側の席へ歩いて行った。
ふたりの中では別れたままになっているらしい。
急いで訂正しようとすると、再び来客があった。
品の良いスーツに身を包んだ男がそこに立っている。なぜか見覚えがあって悠は首を傾げたか、その後ろからひょこりと姿を現した老年の紳士の姿に目を丸くした。
「コレットの爺やさん?」
「こんにちは、新島様。こちらは千歳星家のご当主、千歳星正宗様です」
「お父様!」
コレットが嬉々として駆け寄って来たが、悠はコレットが発した言葉に驚愕した。
「お、お父様!?」
「はい、私のお父様です! あらじまに来てくださったんですね!」
「あぁ、お前がどうしても戻りたいと言った店に興味が湧いてね」
「ふふ、とても美味しいので覚悟しておいてくださいね!」
「それは楽しみだね」
正宗はコレットを愛おしそうに見つめていたが、ぎっと悠に鋭い視線を走らせて近づいて来た。
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