第九話 寄り添う肉団子スープ

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「新島様。お世話になりました」 「こちらこそ、彼女がいてくれたおかげで助かりました」 「ちょっと! 私を無視して話を進めないでください!」 「お嬢様、声を抑えて」 「だって……」 「コレット」  悠の顔を見たコレットは息を呑んだ。  すでに何かを決意した、力強いまなざしをしていた。 「ありがとう。本当に感謝してる」  これが別れの言葉なのだと理解して、コレットの頬に涙が伝った。 「嫌です……お願い、悠さん。帰りたくない!」 「爺やさん、お願いします」 「はい」  悠はコレットの鞄を執事に手渡して、早々に扉を閉めてしまった。 「悠さん!」 「お止めくださいお嬢様。新島様に何を言っても、もうあなたを迎え入れたりはしないでしょう。それはあなたが一番理解しておられるのではありませんか?」  扉のノブに手を伸ばそうとしたコレットだが、執事の言葉に動きを止めた。  悠は優しい。無銭飲食をしたコレットを助けてくれたように、困っている人を見過ごせない。誰かに手を差し伸べられるほどの悠が、スキャンダルを狙うマスコミの中にコレットを置いておくだろうか。 「お嬢様。帰りましょう」  悠さんが困っている時は、誰が悠さんを救ってくれるの?  いまのコレットでは足を引っ張るだけだ。コレットはその自覚があった。  それからのコレットはどのようにして車に乗ったのか覚えていない。  気づいたら後部座席に座っていて、シートベルトを締めていた。 「あれ?」  窓の外を見ても、小さな店舗が建ち並ぶ見慣れた路地がない。贔屓にしているスーパーも、初デートで待ち合わせした駅も、何も見えない。  どこか懐かしい高級住宅街が広がっていた。 「もうすぐ着きますよ」  運転席の執事の声が遠い。  何もかも呆気なく終わってしまって、呆然としてしまう。  窓ガラスに映る自分の顔が驚くほど間抜けで、ふっと笑いが零れた。 「初めて誰かを好きになって……悠さんも私のことが好きだって、言ってくれたのに」  ぼろぼろと涙が零れ落ちる。手の甲で口元を抑えても声を抑えることができなくなって、コレットは子供の頃のように声を上げて泣いた。  執事は車を停めたあとも、コレットが泣き止むまでそばにいてくれた。
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