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「私はどうすれば……どうすれば悠さんの力になれるの?」
本当にここにいるのが正解なのだろうか。
コレットは壁に飾った家族写真を見上げた。
幼い頃のコレットを中央にして、向かって左側に母、反対側に父が映っている。
コレットと同じ茶髪に青い瞳の美しい女性がまぶしく微笑んでいる。
彼女は失敗を恐れる必要はない、と幼いコレットに言い聞かせていた。
「大丈夫よ。あなたの失敗を知っているのはあなたと、その周囲の人間だけ。どうせ何百年後には誰もいないのよ!」
そう言って、いつだって明るく笑ってくれた母を思い出して、コレットはようやく目が覚めた。
「そうですよね、お母様」
コレットの心から迷いが消えた。
***
悠がゆっくりと目蓋を開くと、目の前にはテレビがあった。どうやら居間のソファーで眠ってしまったらしい。
テーブルの上に置いてある携帯は、きのうからずっと電源を切っている。
悠は頭痛に顔を顰めて、紛らわせるように額を撫でた。
壁にかかった時計の針は、朝の六時を指している。
窓の向こうの空はまだ薄暗闇に沈んでいた。
コレットを家に帰してから食欲がない。
そのせいか、眠気とも疲労ともつかない怠さで全身がひどく重い。
きっときょうも店を開けられないのだろう。
「とりあえず、掃除するか」
祖父から受け継いだ店をこのまま廃れさせるわけにはいかない。
悠は重い腰を上げて、顔を洗って歯を磨き、服を着替えて一階へと続く扉を開いた。
「ん?」
一歩階段に踏み出して、違和感を覚えた。
一階から何かの匂いが漂ってくる。
まさか火事か!?
悠は階段を駆け下りてキッチンに駆け込んだが、火元らしいものが見当たらない。
しかし、シンクは濡れていて、ここで誰かが何らかの作業をしたことは見受けられた。
ついに不法侵入までしてきたか、と悠は苛立ちを覚えて顔を上げると、そこで信じられない光景を目にした。
入口側の席に誰かが座っている。
「おはようございます!」
「コレット……」
呆然とつぶやく悠に、コレットはふわりと微笑んだ。
コレットは椅子から立ち上がると、悠のもとへ歩み寄る。
「どうしてここに!」
「合鍵を持っているのは私だけですからね!」
「そうじゃない!」
悠が声を荒げるが、コレットは穏やかに目を細めるだけで、歩みを止めようとしない。
「掃除もしておきました。なんだか埃っぽかったですよ? 私がいないとすぐこうなるんですから。猫の手ならぬお嬢様の手も借りたいところですよね」
やがてふたりの距離が縮まると、コレットは躊躇うことなく悠の左手をとった。
悠は俯いて、緩く頭を振っている。
「だめだ、コレット。家に戻れ」
「そんなことより、早く座ってもらえませんか? せっかく作ったのに冷めちゃったら台無しです」
「そんなことって」
悠が呆れたように顔を上げると、「やっとこっちを見てくれた!」とコレットが明るく微笑んだ。
それからコレットに腕を引っ張られて、強引に椅子に座らされた。
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