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「よくも悠やコレットさんをいじめてくれたよな。覚悟できてるんだろ?」
「お、王子流星……」
「私からもあなたに聞きたいことがあります」
そう言って流星の後ろから姿を現したのは千歳星家の執事だ。
「洗いざらい吐いてもらいますよ」
執事が笑顔の向こうでぎらりと目を輝かせた。
***
「ちくしょう! 何しくじってやがる!」
和坂は柔和な顔を歪めて、広報部部長専用室のテーブルを蹴り飛ばした。
広げた書類が滑り落ちて床に散乱する。
和坂は興奮した様子で携帯画面をにらみつけた。
「ふざけやがって……新島悠を潰せって言っただろうが! 役立たずどもめ!」
「おやおや、化けの皮が剥がれているよ」
和坂が顔を上げると、いつの間にか部屋の扉が開いていて、その向こうに正宗が立っていた。
「あ、社長……いまのは……」
「あぁ、話さなくていい。どうせマスコミに新島悠のねつ造記事を書かせて失敗したって話だろう」
正宗は言い訳をしようとする和坂を手で制止して、部屋の中へ入った。
「私がここに来たのは別件だ。きみに任せていた系列店の売り上げに細工が見つかってね、突き止めるのに少々骨が折れたよ。それ以外にも色々と手を伸ばしているようだね。経営するよりも精が出ているじゃないか」
正宗の後ろから警察官がぞろぞろと部屋に侵入し、混乱する和坂を取り囲んだ。
「それにあらじまにタチの悪い客を向かわせて営業妨害させたのもきみだね。広報部としての人脈を最大限に使って好き勝手してくれたじゃないか」
正宗は和坂の肩を叩いて、冷厳なまなざしでにらみつけた。
「二度と娘に近づかないでくれたまえ」
和坂は正宗をにらみ返す気力もないようで、魂の抜けた抜け殻のようになって警察に連行された。
***
コレットは合鍵を使って店の裏口から中に入り、キッチンへと入った。
必要なものを詰め込んだ旅行鞄をひとまず床に置くと、階段を下りてくる足音が聞こえて、それだけで頬が緩んだ。
「コレット。おかえり」
「ただいま! 悠さん!」
コレットは下りてきたばかりの悠の胸に飛び込んで、背中に両腕を回してしがみついた。
求めていた温もりに頬ずりをしていたが、いつまでも悠の腕が回ってこないので、不思議に思って顔を上げると、悠は少し困ったように眉を垂れていた。
「悠さん?」
「まずは先に言わせてほしい」
悠はコレットを優しく引き剥がすと、不安に揺れるコレットの目を見て言った。
「また俺の恋人になってくれないか?」
「え?」
なぜそのようなことを聞くのかと疑問に思ったが、コレットは思い出したようにあっと声を上げた。
「もちろんです! そもそも私は最初から別れることを了承していなかったでしょう? だから、最初から別れていないんです!」
「そうか……でも、俺としてはケジメをつけたかったんだ。また俺を受け入れてくれてありがとう」
そう言って悠は今度こそコレットを抱き寄せてくれたので、コレットは嬉しくなってぐりぐりと肩に額を擦りつけた。
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