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「そうと決まれば早速食材を買いに行きましょう!」
「そうだな」
コレットは一度荷物を部屋に置いてから、悠と一緒に贔屓にしているスーパーに向かい、買い出しを済ませた。
その帰り道、ニュースを見たらしい女性たちが近づいて来た。
「新島選手! これからも応援しています!」
「ありがとうございます」
悠は少し驚いていたが目を細めて微笑んだ。
その表情を見た女性たちは顔を赤らめて、はっと我に返ると頭を下げて慌てて去って行った。
「嬉しいな。こんな風に言ってもらえるなんて」
「そう、ですね」
嬉しいことのはずなのに、なんだかコレットは胸がモヤモヤしてしまう。
そのモヤモヤは店に戻っても続いていて、さすがにコレットの様子に気づいた悠が顔を覗き込んでくる。
「どうした? 体調が悪いのか?」
「いえ! 絶好調ですが!?」
「いや、これはかなり怒ってるな。俺、また何かしちまったか?」
悠が困ったように頭を掻くので、コレットは罪悪感を覚えたが、それでも胸のモヤモヤは怒りとなって抑えきれなかった。
「そうです! 私は怒ってるみたいです!」
「やっぱり」
「だって悠さんは格好良いんです! 料理も上手で一途で優しい! だから女の子たちが声をかけて来るんですよ!」
「うん?」
しっかり反省しようと頭を下げていた悠はその内容に首を傾げる。
「近頃はよく笑顔を見せるようになりましたし、そんな顔見せられたら誰だってころっと好きになっちゃうじゃないですか! って、なんで笑っているんです!」
悠は表情を隠すように口元に手を当てていたが、堪えきれなくなったように肩を揺らした。
コレットはむうっと頬を膨らませる。
「悪い、嬉しくて」
「嬉しい? そりゃ悠さんがモテるのは私としては悪くない気分ですけど!」
「そういう意味じゃない。恋人に格好良いと思われているのが一番嬉しいんだ」
コレットはきょとりと目を丸くして、それからご満悦な様子で顔を綻ばせた。
「ふふ! 私が一番悠さんの格好良いところ知っているつもりですよ!」
「あぁ、そうだな」
コレットは無性に悠にくっついて甘えたくなったが、新メニューを試作する時間と開店時間もあるので泣く泣く堪えた。
「まずはベシャメルソースを作りましょう」
「ホワイトソースとは違うのか?」
「ホワイトソースはベシャメルソースを含めた総称ですね! つまりホワイトソースでもあります!」
「なるほど。それで俺はミートソースを作ればいいんだな?」
「そうですね、お願いします!」
コレットはまず玉ねぎ一個を約一センチ幅に角切りにすると、鍋に水五十ミリリットルと切った玉ねぎ、バター三十グラム、塩四グラム、ローリエ一枚を入れて弱火にかけて、鍋に蓋をして煮込んだ。
隣では悠が玉ねぎ一個とにんじんの半分をみじん切りにしている。
そしてフライパンに油、軽くつぶしたにんにく一片を入れて中火にかけて、香りが出てきたら強火にして合いびき肉三百五十グラムと塩六グラムを入れた。
合いびき肉をフライパン全体に押し広げて、そのまま動かさずしっかり焼き色をつける。
しばらくして、悠はフライパンを火からおろすと、肉から出た脂を七割ほど捨ててから再び火にかけて、そこに玉ねぎとにんじん、バター十グラム、ローリエ一枚を入れて中火にして炒めた。
コレットは悠の真剣な横顔を見つめて、頬を緩める。
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