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「きみ」
「は、はい! コレットさんにはいつもお世話になっております」
「コレットを呼び戻しておいて、娘に悲しい思いをさせていないだろうな?」
「え?」
正宗が目を血走らせながら徐々に迫ってくるので、悠は限界まで体を反らした。
「非常に気に食わないが……娘はきみに好意を抱いている。いいかね、一度別れたからと言ってあきらめるような男には娘はやらんぞ!」
「つまり、応援している、と仰っております」
「断じて違う!」
執事に背中を押されながら、正宗たちは壁側の手前の席へと歩いて行く。
悠は困ったように頭を掻いた。
「お父様、何か言っていました?」
先ほどの光景を見守っていたコレットが尋ねると、悠は少しむず痒そうに口元を緩めた。
「みんな俺たちが別れたままだと思っているみたいだ。というか付き合ってることがバレてるのも驚いたが」
「あ、それ吉野さんたちにも言われました」
「そうなのか? まあ、あんな騒動があったから仕方がないのかもな」
「ふふ、もうとっくによりを戻していますよね!」
コレットがさり気なく近づいて、ぴたりと服越しに腕を重ねると、悠ははにかんで笑った。
「そうだな。じゃあ、ちゃんと報告しないといけないな」
「え?」
「すみません。簡単な挨拶をさせてください」
悠はキッチンカウンター前の全席が確認できる場所に立ってそう声をかけた。
談笑していた声が止んで、その視線が一斉に悠に集中する。
「こうやって再び開店することができたのは、支えてくださったお客様と、千歳星コレットのおかげです。ありがとうございます」
悠が深く頭を下げると、温かな拍手が上がった。
コレットも悠の後ろに立って同じように拍手を送った。
「再出発ということで、近々新メニューのラザニアを追加します」
歓声が上がり、コレットはその反応に両手の拳を軽く握った。
「あと、もうひとつ。私事で恐縮ですが……私の恋人を紹介させてください」
そう言って、悠は振り返ってコレットに右手を差し出した。
コレットの全身に喜びが駆け巡り、頬が熱を持つ。
コレットはその大きな手をとって、悠の隣に並び立った。
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