お見合い

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 弘光さんがどんなゲームをしているのか聞いてみると、ロールプレイングゲームやシューティングゲームを好んでやり、昼から早朝までぶっ通しで遊ぶこともあると教えてもらった。 「ロールプレイングゲーム興味あるんですよね。私にも今度教えてください」  そう言うと、弘光さんは顔を上げ目をやや細めてきた。 「このお見合い、受けるつもりですか?」 「今のところはそのつもりです」 「僕は貴女と結婚してもいいですが、今の生活を変えるつもりはありませんよ。ずっと引きこもり、そして働きません」  早口ながらはっきりと意志表示され、唖然とする。働いたら負けとでも思ってるのだろうか。  返答に困っていると、弘光さんはまた俯いた。  俯き慣れてる感じがする。 「少し長くなりますが、聞いてください」 「あ、はい」  真剣さを感じ取ったので、崩してた座り方を正し背筋を伸ばした。 「両親が僕の結婚を急かしているのは、僕が邪魔だからです」 「…え?」 「十五年も親の金を使って生活して引きこもっている僕をいい加減鬱陶しく思ってるんですよ。あと、世間にお見せできない愚息だとか。恥ずかしいんですよ僕が。けどただ追い出しても生活力がないので死ぬのは目に見えているし、体勢も悪い。だから結婚という形をとって誰かに僕を丸投げしたいって話なんです」  急に何を話し出すんだと首を傾げたが、彼は構わず続ける。  それはそうと、彼は結構素敵な声の持ち主だったので、聞き入ってしまいたくなる。 「もうすぐ兄夫婦と同居を始める予定もあって、その前になんとしてでも僕を追い出したいんですよ」 「はあ」 「お見合いは今まで六回しました。全部一ノ瀬家と並んでも申し分ない金持ちの家の娘さんでした。でもそういうとこのお嬢さんってプライドが高いんですよね。僕を一目見て、なんで私がこんなモジャモジャの不潔ニートと結婚しないといけないの、と結局六回ともすぐに破談になりました。そこで父が目をつけたのが、一般家庭、それも少々お金に困っている家の年頃の娘。会社の人間を選んだのは、社長という立場を利用したものです。普通平社員は社長に逆らいませんから」  いや、逆らう人も普通にいるって。  口にしそうになったツッコミを飲み込み、一口分だけ残っている緑茶を飲み干した。
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