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意外にも弘さんは少し前を行ったところのコンビニの前で私を待ってくれていた。
私が近くまで来ると自然と横に並んでくる。
「塩買った」
「うん、見てたよ。よかったね」
「…うん。何か買った?」
「ううん。今回はなにも買ってないよ。タイガーアイっていう石の原石をね、買おっかなーって迷ってたけどやめたの」
高かったから、と隣を見上げたけど、どことなく弘さんの意識は既に違うところに向いてるように見えた。
多分タイガーアイの話なんて実は聞いてない。
今なにを考えているのか、私にはわかる。
おっぱいじゃない。乳首でもない。彼女だ。浜口さんだ。
これはもしかすると、本当に離婚が現実になるかもしれない。
弘さんはもう、私の乳首を吸うために動いているんじゃない。弘さん自身が浜口さんともっと心を通わせたくて動いている。
というかよく考えてみると、浜口さんとデートに行けたら乳首を吸わせてあげるっていうのも、おかしな話じゃないか。
『はい、約束だから吸っていいよ』と私が胸を差し出したところで『浜口さんの乳首を吸うから君のはいいや』と本気で嫌がられ、早々に追い出されるんじゃないだろうか。
いや。それでいい。
弘さんの幸せの為なのだからそれでいいんだ。私は慰謝料さえもらえれば問題はないはず。
だから、応援してあげよう。
そう強く思って拳を握ると、帰路を映す視界が、なぜか少しだけ滲んでぼやけた。
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