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お墓の石として置いたクンツァイトを浄化してないから浜口さんに会うつもりはなかったのに、あの仮の妻が行ってこい行ってこい、じゃないと乳首吸えないぞいいのか、と童貞を焦らす言葉を巧みに使って僕を無理矢理連れ出したせいで、三回目のチャレンジという形になってしまったのだが、何を話せばいいか今日もわからない。
水晶も別にほしくない。
でも、浜口さんに顔を覚えてもらえたことは素直に嬉しいから、結果的には仮の妻には感謝している。
結局一番小さい水晶玉を購入してお店を出た。
「また来てくださいね」と言ってくれたことが妙に気恥ずかしくて、アスファルトを見下ろしながら歩き進む。
「弘さん、何か買ったの?」
いつの間にか隣に並んでいた仮の妻が、持っていた小さい紙袋の中を覗いてきた。
「水晶」
「へえ。水晶って丸いやつ?」
「うん」
「占いでもするの?」
「…しないよ」
僕だってこの用途がわからない。頭に浮かんだ石を咄嗟に口に出していただけだ。
「デートの約束はできた?」
「で、できるわけない…」
「そっかぁ。次は誘えるといいね」
胡散臭そうな笑い方で僕を見上げる仮の妻。
本心で言ってるのか、正直僕にはわからない。
彼女は僕のお金(正確にいえば僕の両親のお金だが)が目当てで結婚したのに、浜口さんと進展があれば離婚するとまで言った。
その本心は一体なんだ。
それは純粋に僕の恋を応援するためなのか。それとも、僕との生活が嫌で離婚できるチャンスだと喜んでいるのか。
正面へ顔を向けた仮の妻を盗み見る。
肩より長い髪が風に靡くと、視線は露になった白いうなじに移り、そしてTシャツの袖から伸びる二の腕へ。
そして最終的におっぱい様に移り、暫く目が離せなかった。
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