★ラストミッション

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「いらっしゃいませ。あっ。来てくださったんですね」  エメラジョジョーンに入店すると、早速浜口さんがカウンターから挨拶してきた。桃色のセーターがなんて似合う人なんだろう。  今日は知らない別の女性店員も横にいて、僕を見ると会釈してくる。  浜口さんはわざわざカウンターから出てきて僕のそばに寄ってきた。途端に心臓が暴れてくる。 「あ、あ、こ、こんにちは」 「ふふふ、こんにちは。今日は何を探しに来られたんですか?」  潤んだ瞳と涙袋の控えめな光沢が眩しすぎて目を逸らす。  何を探しに来たのかって、別に何も探しに来ていないが、正直にあなたに会いに来ました、なんて三十一歳童貞のこの僕が口にできるわけがない。  何かないかと考えていると、先日仮の妻がタイガーアイという石について話していたことを思い出した。 「タ、タイガーアイって、ありますか?」 「ございますよ。こちらです」  浜口さんに案内されそこに置いてある品を興味ありげに見るが、正直興味はなくて、次は何を話せばいいんだと昨晩仮の妻と話し合った話すことリストを思い出すが、あれ、どうしようっ。思い出せない!  まるでそんな会話しなかったかのようにそこだけ記憶が消えてしまっている!  ど、どうすれば!何を話せば! 「タイガーアイは金運や仕事運に良いって言われてる石なんですよ」 「え、あ、そうなんですか…。へ、へぇ」  確かに艶のある褐色は金運に良さそうに感じる。  仮の妻が欲しいと言ってた理由が理解できた。あの人は金の亡者だと自分で言ってたから。  でもそう言ってる割には贅沢してる感じには見えないな。  昨日出した紅茶のパックも、前日に使ったやつを干して再利用してるんだと誇らしげに言ってたし、電気のつけっぱなしをしたら電気代が!と説教してくるし。
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