★ラストミッション

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「気になるものとかありますか?」 「へ?あ…、え、えっとじゃあ、これ買います」  買うつもりは全くなかったが、咄嗟に掴んだものを浜口さんに渡した。 「タイガーアイの原石ですね!ありがとうございます」  カウンターで原石を包装しながら、浜口さんは時折僕へ視線を送って微笑んでくる。  その度に僕は緊張させられ、背中を汗が伝う。  仮の妻が用意してくれた薄手のセーターはグレーなので、汗が滲んで目立ってしまわないかとハラハラしながらクレジットカードと三回目のチャレンジ時に作ったメンバーズカードを差し出した。  ポイントが溜まると対象商品が50パーセントオフになるカードには、浜口さんが手書きで書いた僕の名前が記入してある。僕はそれを見る度ににやにやと頬を緩ませている。 「お買い上げありがとうございます」 「は、はい。あ、で、では…」  紙袋を受け取り、背中の汗を懸念して後ろ向きに歩いて店の外を目指す。  それを見ていた浜口さんが、隣にいた別の女性店員に何かをこそこそ話すので、僕の行動が気持ち悪いと陰口を言っているのではと泣きそうになってきた。  ああ、どうせ僕なんか。僕なんかちょっと痩せたって、好きな女性にかっこいいところ一つ見せられない駄目人間なんだ…。  俯きながら店の外へ出た時、「一ノ瀬さんっ」と呼び止められた。  ビクッと肩を震わせ顔を向けると浜口さんがいて。 「あの、私今日はこれで上がりなんです。あの…、もしよかったらこのあとお茶とか…しませんか?」 「…っへ!?」  僕は心の中で仮の妻に助けを乞うた。  この展開、ど、どうすればいいんですか!?
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