★ラストミッション

5/9
前へ
/163ページ
次へ
 約半年前、婚姻届けに判を押す時、浜口さんの存在は脳裏に浮かんだけど、どうにかなる関係でもなければ自分なんか恋愛対象にすらならないとずっと前から自負していたので、中田ひな乃さんとの結婚に躊躇いがあったわけではなかった。  実際に僕は十五年の引きこもり生活ですっかり自給自足できない体になってしまったので、生きるためなら誰が僕の世話をしようと、そのために誰と結婚しようと関係なかった。  それでも、これで本当に浜口さんとは終わりなんだなと胸が締めつけられたのを今でもしっかり覚えている。  終わりも何も、始まってもいなかったのだが、そこはまあ、ね。いいじゃないですか。妄想では何回もデートしてたんだし。  とりあえず、諦めた恋だったはずなのに、僕を尾行していた仮の妻に浜口さんへの諦めきれない淡い恋心を知られ、応援するから話しかけてみなよと乳首を対価に取引を持ちかけられるとは、思ってもみなかった。  あの人は本当にずるい。  乳首に敵う童貞がいないことを知っていて僕に拒否不可能な取引をしてくるなんて。  本当にずるい。  でも内心は、乳首吸いたいです!と尻尾を振り股間をキュインとさせ嬉しい取引だなと感謝までしてたのだから、童貞は非常に単純な生き物で、辛い。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2664人が本棚に入れています
本棚に追加