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「あ、あの。三年前のことは、その、覚えてたりしますか?」
「一ノ瀬さんがクンツァイトをご購入された時のことですか?」
「あ、はい」
「それが…、実はよく覚えてなくて。私普段は記憶力ある方なんですけど、一ノ瀬さんのことは…」
すみません、と心から申し訳なさそうにする浜口さんに、僕は必死になって首を左右に振る。
覚えていなくて当然なんだ。だって三年前と今の僕は見た目がかなり違っているのだから。
僕だってまさか自分がダイエットを成し遂げてみせるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
ダイエットするくらいなら自立してやると思うほどやるかボケの気持ちでいたのに、おっぱいごときで自分の意志を簡単に曲げ、熱心に運動を始めてしまうなんて、本当に信じられなかった。
自分がいとも容易くおっぱい奴隷と化してしまうとは。
おっぱいも恐ろしいが、十五年もののプロニートをおっぱい二つだけで侍らせるあの仮の妻も恐ろしいと思っていた。
けどもだ。
結果的に僕は痩せることができたし、前の自分よりは今の方が清潔感もあって個人的には気に入ってる。きっと、もしかしたら、そのおかげで浜口さんも僕なんかをお茶に誘ってくれたんだ。
だからやっぱり僕は仮の妻とおっぱい様に感謝している。
束の間無言になってしまったが、溶け始めた氷がカランと音を立てて崩れると、浜口さんが口を開いた。
「えっと、一ノ瀬さんって趣味とかありますか?」
「あ、趣味はゲームです」
「へえ」
「浜口さんは、その、ゲームとかってしますか?」
「はい、少しだけですけどしますよ」
すると彼女はクスリと笑う。
「スマホのアプリゲームなんですけど、妖精を育てて可愛い部屋を作ったり洋服の着せ返えをしたりするゲームなんです。ちょっと子供っぽいかもしれないんですけど、癒されるんですよね」
可愛らしいと思った。
仮の妻とは大違いだ。
あの人もゲームをしているが、たまたまスクリーンが見えた時、パンツ一枚の太ったおっさんのお尻を棒で叩いてる画面が見えてゾッとしたのを覚えている。
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