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仮の妻はいきなりグラスに入った麦茶をゴキュゴキュと一気飲みし、長い息を吐きだした後、飛び切りの笑顔を向けてきた。
「すごいじゃん弘さん!たくさん話せたんだね」
想像してた通りに彼女は喜んでくれた。
嫌いじゃなかったはずのその笑みが、今は気に障る。喜んでなんか欲しくない。そんなことまでも思ってしまう。
気づけば僕は首の限界の角度まで俯いていた。
「次こそデートに誘えるといいよね」
浜口さんとの進展のチャンスは僕が自らなくしてしまったのでデートなんて現実にならないが、僕は「ん…」と適当に返事をした。
心の中ではいつものネガティブな感情が溢れてくる。
仮の妻はやっぱり僕と離婚したくてしょうがないんだ。だからこんなに後押ししているし、進展を喜んでいる。
僕なんかとさっさと別れたいんだ…。
そう思ったら年甲斐もなく泣きそうになって、仮の妻が何を話しかけても答えることができず無視をし続けてしまった。
そんな僕の様子を怪訝に思ったのか、夕食の後、仮の妻は僕をソファーに誘った。
デザートだよ、と言ってテーブルに置いてくれたのは梅昆布。
…これってデザートって言えるの…?と言いたくなったけど、目を合わせてしまうと、胸の高鳴りと悲しさに同時に襲われ、やはり俯く。
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