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キングサイズのベッドの真ん中で蹲っていた僕は、ふとある人物を思い出した。
僕が数年放置したモジャモジャの髪を切ってくれた西条さんだ。
そういえば名刺をくれたっけな、とデスクの引き出しを開け漁っていると、奥の方にあったそれを見つけた。
『弘光君っ!君は童貞なんだろ。大丈夫、大丈夫だよ。人間誰でも最初は童貞なんだ。気負わなくていい。でも辛いよね。嫁さんいるのにどうしていいかわからないのだろ。大丈夫。俺はね、超恋愛マスターなんだ。経験値なら他の雄とは比べ物にならないくらいあるからさ、きっと弘光君の役に立てると思う。もし困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。必ず力になるよ』
急に僕の部屋のドアを開け放ち僕の手を握ってきた西条さんは、そんなことを早口で告げてきて、唖然としているうちに名刺を渡してきたのだが、あの時は本当に驚いた。
玄関で最初に見た時からこの人は女慣れしたイケイケの男なんだなと察して萎縮させられたけど、意外にも童貞には優しいので良い人なんだなとは思ったが、連絡するつもりは全くなかった。
だが僕は今どうしても超恋愛マスターを必要としている。
仮の妻への恋心に気づいてしまった三十一歳童貞は今後の身の振り方が全くわからないのだ。
しかもその仮の妻は僕と離婚したがってる様子。これはもう、僕一人ではどうすることもできない状態だ。
だから僕は、名刺にある番号を確認しながら、スマホのダイヤルボタンを押していった。
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