★超恋愛マスター

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 翌日、仮の妻がパートに出かけてから数時間後、僕も身支度をして外の世界に出た。  目的地は原宿。  昨日西条さんに電話すると、じゃあ会おうという話になってしまい、忙しいから美容院まで来てくれと頼まれた結果、僕は大冒険をする羽目になってしまったのだ。  久しぶりに利用した電車も怖かったが、十五年ぶりに歩いた原宿はめちゃくちゃ怖くて泣きたい気分だった。  道行く人が全員僕を見ているような気がして僕の絶対安全地帯である寝室まで一目散に逃げだしたくなるが、その度に僕の頭に浮かぶのは仮の妻で、それが僕を奮い立たせてくれていた。  地図アプリを使いながら歩き、指定された美容院に到着すると、その出入り口には西条さんがいた。 「おー。弘光君!時間ぴったりだね」 「は、はい」  彼の髪の色が銀になっていたので驚いたが、それでも似合っているし今日も眩しいくらい輝いている。  性の経験値が一般人より突飛しているせいなのか、どこか神がかった雰囲気が西条さんにはある。 「こないだ会った時より逞しくなった感じするね」 「あ、はあ…。えと、一応筋トレを続けてて」 「そっか。頑張ってるんだね。でも嬉しいよ、弘光君が俺を頼ってくれるなんて。大丈夫。きっと後悔させないよ」 「は、はい。きょ、今日は、よろしくお願いします」  僕は超恋愛マスターに深々とお辞儀をしたのだった。
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