★アドバイスの実践

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 洗剤の量が多すぎたかもしれない。泡がすごい…。  たった一つの食器にこれだけの泡は必要ないだろうと呆れつつも、マグカップの持ち手を掴み上げスポンジで擦り始める。  折角大量の泡が出たので最高級に綺麗にしてやろうと思いキュッキュッキュッキュッと磨いていたが、ちょっと楽しくなってしまいリズムを刻み始めたところで、唐突にぬるっと滑った。  手を離れたマグカップを落としてはいけないと動物並みの反射神経で受け止めようとしたが、僕の手の上に収まりかけたマグカップは再び泡のぬめりに邪魔され、ツルンッと滑って飛んでった。  僕は落下を防ごうと必死に手を伸ばしたがどうすることもできず、結局マグカップは床に叩きつけられ、持ち手と飲み口部分が割れてしまった。  呆然とすること三分。  僕は自分の不甲斐なさを呪いながら片付けを始めた。  マグカップは無地の白で、仮の妻が特別大事にしてるようなものではなかったが、コップ一つまともに洗えない自分が情けなさすぎてため息が止まらない。  小さい破片もあるかもしれないからと掃除機を持ってきたが、電源をいれたところで僕のシャツが吸引口に勢いよく吸われるというハプニングが起こり、パニックになった僕は暴れ、椅子をひっくり返し、観葉植物をなぎ倒し、「うおおおおおおっ」と叫んで掃除機を振り回して放り投げる。  ガチャーンッと衝撃音を響かせやっと電源が落ちたのだが、その瞬間に僕も我を取り戻す。  周囲を見渡し、その惨劇を目の当たりにし、青ざめた。  仮の妻が知ったら怒られるかもしれない…と恐怖しつつ、慎重に片づけをしていると、それだけのことなのに二時間も経っていた。  僕は自分が情けなかった。
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