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夕食時、カツ丼をつくってくれた仮の妻は僕をダイニングへ呼んだ。
顔を見るとドキドキしてしまうことと、マグカップを割った罪の意識で、僕は背中を丸めながら椅子に座る。
「じゃあ食べよっか。いただきま」
「ちょ、ちょっと待って」
両手を合わせたまま首を傾げる仮の妻が可愛いのでドキッとさせられたが、僕は立ち上がり、空いてる引き出しに隠していた割れたマグカップを取り出した。
「これ、さっき割っちゃって…」
虚をつかれたような表情を一瞬した仮の妻は、視線を僕が持つマグカップに移す。
「ほんとだ。持ち手が綺麗に割れてるね」
「…ごめん」
「え、大丈夫大丈夫。私も結構何回も割ってるし」
「あと、多分その。…掃除機も壊れてるかもしれない」
「えっ。なんで?」
「さっき…その…、な、投げちゃって」
仮の妻は目を丸めて僕を見つめてくる。
きっと心の中では掃除機投げるとかこの男は精神が危ういんじゃ等と考えているかもしれない。
「もしかしていつも掃除機の音うるさくて、その腹いせに?」
「ち、違う。別にうるさいと思ってない」
「じゃあ、やっぱりストレス?」
「…やっぱり?」
仮の妻は壊れたマグカップを僕の手から掴み取り、新聞紙に包んでゴミ箱に捨てた。
そして僕に椅子に座れという仕草を向けてくるので、大人しく正面に座り直す。
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