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そういえば、西条さんは褒めることも言っていた。
折角今チャンスがあるのだから無駄にしてはいけないと、僕はごほんごほんと咳をして仮の妻の注意を引き付ける。
「あの…、そ、それはそうと、その」
「うん」
「カ、カツ丼、すごく美味しかった」
仮の妻は再び目を見開いた。思ってた反応と違うから「どうしたの?」と訊いてみると首を振ってくる。
「驚いちゃって」
「え、なんで」
「だって弘さんが料理を褒めたの初めてだから。カツ丼そんなに美味しかったの?味付けとか目分量だったんだけど、もしかして我知らずに調味料の黄金比をかましてた?」
「え、ああ、多分…?とにかく、美味しかった、です。あの、というか、カツ丼に限らず料理はいつも美味しい…です」
「そっか。わ、なんか、嬉しい」
仮の妻の頬が僅かに紅色に染まり、はにかんだように笑うので、僕は西条さんの教えをうまく実行できている手ごたえを覚えた。
このままどんどん褒めよう!褒め倒そう!
「あと、トイレの磨き具合がすごく綺麗」
「えー?本当?ありがとう」
「それからご飯の炊き方がうまいし、洗濯物の畳み方も神がかってる」
「ご飯は炊飯器に全部お任せしちゃってるんだけどね。でもありがとう」
「あと、笑うと可愛い。いや、笑ってなくても可愛い」
その瞬間、仮の妻がわかりやすく赤面した。
それにより童貞は自信をつける。
僕も頑張れば女子を照れさせることができるんだ!僕はもうただの童貞じゃない。そこら辺の童貞より一歩抜きん出ている童貞だ!
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