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「それに髪も綺麗だしいい匂いがする」
「あ、ありがとう」
「声も明るくていいし、肌も白くて透き通っていて綺麗だし、乳首もいい色だった!」
ダイニングが一気に静まった。僕の声が木霊して脳内で響いているように思った。
童貞でもわかる。今のは完全にやらかした。
乳首がいい色だったなんて、絶対アウトな発言だ。
しかも口下手な僕はこの失態を立て直す話術も持ち合わせていない。故にただ固まることしかできない。
「弘さんもしかして…。私の乳首を吸いたいって遠回しに言ってるの?」
「ち、違うっ。そうじゃなくて」
「ダメだよ。デート行くまでは吸えない約束でしょ?」
「そうじゃなくて…」
「でも。…そのことなんだけど、私考えたの。今までは弘さんと一応は戸籍上の妻っていうか関係だったから胸を触らせたり、いろいろとできたけど、もうそうじゃないっていうか」
俯いてしまった仮の妻に僕は心の余裕を失い始めた。「それはっ」と声をあげたが手で制される。
「ちゃんと向き合おうとしてる人がいるのに、私の乳首を吸わせるわけにはいかないし、浜口さんにも申し訳ないよ。だから、このエロ取引、白紙にしよう?」
「ぼ、僕と浜口さんは、その」
「待って。なんか目にゴミが入ったみたいで。ちょっと眼球洗浄してくるねっ!」
唐突に立ち上がった妻は走って物置部屋に行ってしまった。
去り際にその目に涙が浮かんでいるのを確認した僕は、本当に目にゴミが入ったんだなと、タイミングの悪さに苛立ちを覚えていた。
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