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グツグツ煮えるご飯を箸でかき混ぜながら、病人の看病なんて初めてだなぁと思っていると、ふと脳裏に母の姿が浮かんだ。
僕が成人した後は僕のことは大抵お手伝いさんに任せていた母だったが、僕が体調を崩した時は必ず梅とわかめのお粥を作って部屋まで持って来てくれていた。
『弘光?具合どう?お粥食べれそうだったら食べてね』
それに僕はお礼どころか無反応で、母が出て行ってからやっと起き上がり、ベッドサイドテーブルの上に置かれたお粥を食べていた。本当はゼリーがいいのにな、と文句を言いながら食べていたんだ。
母には随分と前から見放されたと思っていたが、本当にそうだったのだろうか。先に壁を作ったのは、僕だったんじゃないだろうか。
そこまで考えて覚醒する。
物思いに耽っている場合じゃない。散らかった部屋を片づけないと。
ゆっくり慎重に割れた皿の破片を集め、掃除機で吸引し、きれいに片づけると三十分以上も経っていた。
時間はかかったがちゃんとできたぞと得意げになると、妙な匂いが鼻腔を通る。なんだこの焦げたような匂いは……まさか!
急いでお粥が入っている鍋の蓋を開けると、見事に焦げていた。どうやら設定を強火のままにしてたようだ。
僕は打ちひしがれた。ここまで何もできないのか僕はといっそ泣いてしまいたくなる。きっといつもなら惨めに泣いていただろう。
けど、今はそんな時間はない。今優先するのは仮の妻だ。
家事や料理は一先ず放棄しよう。
できなくたっていいじゃないか。僕たちにはコンビニエンスストアがあるのだから!頼れるところに頼ればいい!
あれ、今なんか前向きな考え方ができた気がする、と自分に驚きながら、僕は外の世界に駆け出した。
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