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二十四時間営業無敵のコンビニ様でお粥を探したがなかったので、みかんの実がふんだんに入ったゼリーとおでこに貼る冷却シートを購入した。
帰宅すると物置部屋へ直行しドアを叩く。
か細い声で返事が聞こえたので、僕は少々緊張を覚えながらもドアを開けた。
仮の妻の私室となっている物置部屋に入るのは初めてだった。
四方に囲むように設けられた棚の半分は彼女の衣類や私物で埋まっている。畳一畳ほどのスペースに端の折れた布団が敷いてあり、仮の妻はその中で横向きで横たわっていた。
僕がキングサイズのベッドでぬくぬくと過ごしている時、彼女はこんな狭いところで体を丸めて寝ていたんだ…。
今になってようやく気付いた自分がまた情けなくて辛くなるが、反省するのは後にする。
「ひな乃さん、ゼリー食べれる?」
「買って来てくれたの?」
「うん、コンビニで今買ってきた。食べる?」
「うん…ありがとう」
起き上がろうとした仮の妻を補佐しようと、布団の上に乗り上げてしゃがみ、腕を伸ばして華奢な背中を支える。
汗をかいていたのかシャツはじんわりと温かく少し湿っていて、それが何故か僕を緊張させた。
いや、それだけのせいじゃない。距離が近すぎるからだ。
畳一畳分の床に僕みたいに体の大きい奴が入っちゃだめだ。
ゼリーだけ渡したらすぐ出ようと思ったのだが。
「ありがとう、弘さん」
赤い頬と潤んだ瞳で僕を見ながらお礼を言う妻が健気で可愛くて、ちょっと妖艶でもあって、僕は狭くてもいいからそこにいたくなった。仮の妻のそばにいたかった。
そう思って居残ることにしたが、みかんのゼリーを食する女性を間近で静観するというシュールな状態になってしまった。
静観といっても心の中はまったく静かじゃなくて、部屋から出ろ童貞!いや残れ童貞!という争いが繰り広げられていたのだが。
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