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あとで聞いた話、娘さんが結婚を拒否した場合は仕事クビにしちゃうぞ、的な脅しを父は遠回しに言われていたらしい。
一気に社長に嫌悪感は抱いたが、だからって結婚を考え直すことはしない。生活が楽になることは保証されているからだ。
実際に籍を入れ一緒に住み始める前に、何度かデートでもしてお互い知り合っていけばいいだろう。
ついでにダイエットを今からでもやらせちゃおう。
そう考えていた私は甘かった。
一ノ瀬一家の次男追い出し作戦の執念を見た気がした。
なんと、お見合いの翌日に電話があり、明日には新居に越して籍を入れてほしいと言うのだ。私に考え直す時間を与えないつもりらしい。
急すぎるとは思ったけど、無理というわけではなかったので承諾。
荷物が少ないことが幸いし荷造りは三時間で済み、夜は父とハムスターのペット、チコちゃんと独身最後のひと時を過ごす。
「本当に結婚しちゃっていいのか?」
何度も訊いてくる父に「うん、するよ。玉の輿だし、弘光さん悪い人ではなさそうだし。大丈夫だよ」と何度も答えた。
「そろそろ結婚してくれたら安心できるなぁとは思ってたけど、まさかこんな唐突に嫁に行っちゃうとは思わなかったよ」
「大丈夫だよ。遠くに行くわけじゃないんだから」
新居は車で十分程の距離なので、すぐ会いに行ける近さなのはありがたい。
「お父さん、今までありがとう。お父さんとお母さんの娘でよかった」
照れながらもそう言うと、父が泣いた。
父は涙もろく、ひと月に二回は泣くので驚きはしなかったが、流石にこの時ばかりはもらい泣きした。
なにはともあれ、お見合いの二日後、私は新居に移ったのだった。
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