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僕は息を深く吸い込み、そして吐き出した。
「実は…。父さんの会社を辞めようと思ってるんだ」
ひな乃さんは束の間ポカンとして、「えっ!?」と驚いた。
「辞めるって。常務取締役補佐を?」
「そう。それを」
一度も働いたことはないので辞めると言うと違和感があるのだが、実際に仕事を辞めるということが意味するのは、両親からの仕送りを止めるということだ。
「僕は今まで誰かに頼るだけの人生で、それが当然だと思ってた。自分には生活力がないし頑張ったところで期待してる人も見てくれている人もいないんだってずっと思ってた。だから引きこもりニートを続けていた。でもひな乃さんと暮らしてから、僕は自分にも可能性があって、自分でもなんでも挑戦できることを知って。それで…」
俯いたまま話していたが、気になって彼女を一瞥すると、柔らかい微笑を浮かべながら僕の言葉に耳を傾けてくれている。
緊張していたのが、少し和らいできた。
「ひな乃さんがいつも応援してくれて、見てくれていたから、僕は頑張れた」
おっぱいを揉む権利、という名の餌をぶら下げた棒を僕の目の前で振ってくれたお陰、というのも大きな要因ではあるのだが、この真面目な雰囲気を壊したくないのであえて話題には出さないでおく。
だが「弘さんおっぱい触りたくて頑張ったもんね」と平然と言ってくるから台無しだ。
でも、ひな乃さんのそういう所が嫌いじゃない。というか、好きなんだ。
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