新居へ引っ越し

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新居へ引っ越し

 駅から徒歩五分の高級マンション。  その三階が私と弘光さんの新居だった。  部屋に入ると一通りの家具が揃っていて、しかもどれも貧乏人をビビらせるほどハイセンスで高品質。  ベランダに続く掃き出し窓は南向きで日当たりが良く、部屋をより明るく見せる。 「こんな素敵な家にタダで住んでいいんですか…?」  瞳を輝かせながらも恐縮する私に、社長と奥様は「もちろんだよ」と得意げに微笑み、しかも足りないものがあれば買ってあげるからねと私が喜ぶことを言ってくれる。  流石金持ちは羽振りが良い。  部屋の隅々まで見て回る私とは対照的に、弘光さんは大きい体を丸めながらソファーに座り、やはりずっと俯いていた。 「ひな乃さん、ちょっといいかい」  浴室の広さに舌を巻いていると、社長に呼ばれた。  駆け足で戻ると社長と奥様はリビングに設けられた淡いグレー色のL字ソファーに座っている。弘光さんの隣が空いているのでそこに腰を降ろした。  ローテーブルにはペンと婚姻届け。  奥様を一瞥すると、気が変わる前に書いちゃって!今すぐ書いちゃって!とその顔に書いてあるような気がした。 「あ、今書いちゃう感じですか?」 「タイミング的にちょうどいいと思ってね」  いや、早すぎる感じするが?とは思ったが、私の覚悟はもう決まっているのでペンを掴み取る。  苗字を書き出そうとした刹那、今まで無言を通していた弘光さんが「あの」と声を発した。
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