2664人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、それも、そうなんだけど。でもそれでも僕に期待してくれたことや注目してくれたことが、単純に本当は嬉しかった。だから、あの、ありがとう」
今までの感謝を込めて頭を下げると、当たり前のように後頭部を撫でてくるので僕の頬が桃色に染まった。
全く何も誤魔化せていないがとりあえず咳をしておく。
「とにかく、僕はもっと自分を信じてみたいんだ。自分に可能性がまだあるなら、僕はそれを見てみたい」
「うん」
「もう親に頼るだけの僕は終わりにしたい」
「うん」
「それに…」
僕は一度唾を飲み込んだ。
今から臭い台詞を言うので童貞は再び緊張してきたのだ。
「僕は自分の手で…、ひな乃さんを守りたいし、支えたい」
「弘さん…」
彼女の瞳が潤んだのを僕は確認した。童貞の臭い台詞でも彼女の胸には響いたんだ。
「だから僕は、常務取締役補佐とかいう何の補佐をしてるかもわからない仕事をやめて働こうと思うんだ」
「働く?ゲーム配信一本でいくってこと?」
僕は首を振った。
ゲーム配信のフォロワー数はネットニュースで取り上げられたせいで、というかそのお陰で、一気に三万人近くまで増えている。コインを投げてもらったり、コラボのオファーがあったりして、想像以上に稼げそうな気はするが、それ一本でいく気にはなれなかった。
「配信は続けるけど、僕は…、社会に出たいというか。社会経験を積みたいというか。でも業務経験とかないから、そういう条件なしのところで働けたらいいなって思ってて」
「そっか」と呟きつつも、ひな乃さんは意外そうに眉を上げている。
十五年引きこもっていた僕が外の世界で働くなどと口にしたのだから幻聴でも聞いてるのではと疑ってるかもしれない。
それとも、もしかすると不安に思っているのか。
彼女がお金に目がないことを僕はわかっている。僕と結婚したのも、安定的な収入の為だ。
いくら僕を想ってくれていても、安定がなくなるとしたら、彼女はどう思うだろうか…。
最初のコメントを投稿しよう!