2664人が本棚に入れています
本棚に追加
ゴッキュン。
ひな乃さんと目が合ってしまうと、僕は生唾を嚥下した。
すると彼女はニタリと笑う。頭の中を覗かれているような、そんな焦りを覚えると、ひな乃さんが僕の手の甲を指先でなぞり始めた。
「本当の夫婦ってことはさ…」
ゴッキュン。まるで相槌のように僕はまた唾を飲み込む。
「やっぱり契りを結ばないといけないっていうか」
ゴッキュン。
「ハメるとこハメないといけないっていうか…」
ゴッキュン。ゴッキュン!
「見たことない顔を見せないといけないっていうか」
ゴッキュンッ!ゴッ…、こ、口内に唾液がない!水分がない!だが顔面は発汗している。
クスリ、と余裕の笑みを浮かべたひな乃さんは、ゆっくりと立ち上がり、ゆっくり歩き、ゆっくり寝室のドアを開け、ゆっくり振り返ってきた。
すべての動作が優雅で自若としていて、だが艶めかしくて。
それだけで僕の在学生は卒業式を迎えようと滾り始めた。
「弘さん。…おいで?」
飲み込む水分がないのに、僕は盛大に何かを嚥下した。それはきっと、卒業式に不安を覚える童貞としてのビビりの部分だったのかもしれない。
僕は覚悟を決めた。
そしてひな乃さんと一緒に寝室に入り、そのドアを静かに閉めたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!