最終話

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 弘さんが緊張する気持ちは理解できる。  結婚してから一度も会っていない家族との再会なのだから、不安になるのは当たり前の心理だ。  でも今回は自分で行くことを決めたし、僕やっぱ行かない!と駄々を捏ねることもなかったのだから、夫は確実に成長している。  筋トレは毎日ではないけど続けているし、夕飯後のゲームも一緒にしているし、食事もバランス良く食べているし、着る物や身だしなみにも注意を払うようになった。  もうどこからどう見てもかっこいい成人男性だ。  そして弘さんは心もかっこよく、そして素敵で、最近は自信もついてきた。  ゲーム配信は順調で、一つの趣味として続けているようだが、フォロワーさんとのやり取りが楽しいらしい。たまに『仮の妻も呼んでくれ』とリクエストされるみたいなので、今度特別出演でもしてみようかなぁと妻もワクワクしている。  そして社会復帰として働きたいと言っていたのだが、弘さんは決めると行動が速く、すぐに面接まで進め、一昨日から働き始めたのだ。  働き先は商店街にある和菓子屋さんの裏方という意外な場所。  食器洗いや片付けなどの雑用が中心らしいのだが、初日から裏方番長のおばあちゃんに孫のように優しく甘やかされたというので、本人は天職を見つけたかもしれないと嬉しそうにしていた。  様々なことの一つ一つが弘さんの自信をちょっとずつ大きくさせているように思う。  これからもどんどんいろんな経験をして、弘さんはもっともっと自信をつけて、輝いていくんだろう。  横顔を伺うと何を考えているのか、少しだけ口角が上がっている。  その表情に私はドキッと胸が高鳴った。  やっぱり、童貞を卒業したせいか弘さんは蛹から蝶々になったように思う。やっぱ違うのだ。一皮向けているのだ。  急に昨晩の弘さんを思い出してしまって、妻は頬をほんのりと紅色に染める。
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