最終話

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 一ノ瀬一家は先週、新築の二世帯住宅に引っ越しをしたので、タクシーが止まった場所は未知なる土地で、静かな高級住宅街。  その中でもひと際存在感を放っていたのが一ノ瀬家の新しい住宅だった。高い外壁、広い庭、清涼感のある白い壁と赤い屋根。まるでドールハウスのような可愛さがある。 「じゃあ、押すよ?」  インターホンのボタンへ指を伸ばしながら弘さんに確認すると、うんと覚悟が決まった顔で頷いてくれた。  ドアを開けて出迎えてくれた奥様は弘さんを見て、想像していた通り、いやそれ以上に驚いていた。  すぐに弘さんだとはわかったようで、第一声は「ひ、弘光っ。あなた脂肪はどこへやっちゃったの!?」だった。 「ダイエットして…」 「まあっ…」と口に手を寄せ、奥様が私を見てくる。  その目が、ダイエットを続けていたなんてっ、と言ってる気がするので、妻は鼻が高い。  そして私たちはみんなが集まっているというダイニングへと案内された。  ここでもやはり全員が驚愕し、総立ちし、目をカッと開き、言葉を失ったのだ。  お兄さんの娘さんで五歳になった長女までもが口をあんぐりさせていたのだから、弘さんの大変身は一ノ瀬一家を大きく揺るがしたようだ。やはり妻は鼻が高いっ! 「な、ど、どう、どうしたんだ弘光…」  最初に声を出したのは社長だった。   「ダイエット続けたらしいのよ…」  社長の隣へ移動していた奥様が答えると、社長の目が益々見開かれる。「まじかよ…」とお兄さんも信じられないといった表情だ。
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