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「どうしました?」
「それを書いたら、本当に僕と結婚することになるんですよ?…後悔しないんですか?」
ご両親の方から、おい余計なこと言うんじゃない、とそわついた空気を感じた気がする。
俯いたままなので、クネクネした髪が前下がりになり、その隙間からこちらを向く瞳が見える。
表情はないが、私を気遣ってくれているのだろうか。
「後悔しないですよ。それに私付き合ってる人がいるとか、好きな人がいるとか、そういう複雑な状況でもないですから」
恋愛は人並みにしてきたけど、ここ一年は恋すらしていない。
元々結婚願望は強いわけではなく、いいご縁があれば結婚すればいいし、なければ独身を謳歌しようと思っていた。
ただ、玉の輿に乗れるならがっつくぞ、の気持ちはいつもあった気がする。
「弘光さんはどうなんですか?結婚して、後悔することはないですか?」
「…僕も別に、ないです」
「そうですか。じゃあ書いちゃいましょ」
そして私と弘光さんは婚姻届けに判を押したのだった。
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