お見合い

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 この日のために奮発して高めの白いワンピースを買ったけど、レンタルでもいいから着物にすれば良かったと後悔している。  社長の隣には奥様が座っているのだが、七宝模様の帯と菊文様をあしらったえんじ色の着物を上品に着こなしていて、どっちが主役だよという感じ。  なぜそんな裕福な家の息子さんと平々凡々ちょっと貧乏を地で行く私のお見合いが決まったかというと、実は私も父もよくわかっていない。  持ち掛けてきたのは社長だというが、普通金持ちは金持ちとお見合いするものではないのだろうか。  父と社長は雇い主と雇い人というだけの間柄だし、話したこともほぼないらしい。  ただ「中田さんとこの娘さんなら、きっと息子のいいお嫁さんになると信じている」と期待の眼差しを向けられたと、どこか畏怖した様子の父に聞かされてはいた。  私は一人こう解釈している。  母とまではいかないが、私は亡き母に似ていて美人だと思う。もしかしたら社長は何らかの形で私の顔を知り、おおこれはこれはまるでかぐや姫、是非とも息子の嫁にしたいものよ、という親心が働いたのではと。  …まあ、違うでしょうね。
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