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あれ、と首を回してすぐに発見。
彼は壁面収納に背中をぴったりくっつけて、強張った表情をしていた。
「どうしました?」
「と、父さんに電話する!部屋を変えろって!そ、それかベッドをもう一つ用意するようにって」
上ずった声で喋るその取り乱した様子を見て、私はまさかと思った。
「…弘光さんって、もしかして童貞ですか?」
訊いた途端、彼が「んぐっ」と唸ったので、それを肯定と捉える。
いや、童貞でおかしくない。
だって十五年引きこもってたんだから、そういうチャンスがなかったなんてあり得る話。
「あの、弘光さん」
「は、ひ、は、ふ」
近づこうとすると変な声を出して横歩きで逃げようとする。
結婚に抵抗感もなかったし、あっさりと婚姻届けも書いていたくせに、キングサイズベッドを見ただけでここまでテンパるなんて。
呆気に取られてしまう。
童貞君には、妻とはいえ知らない女をいきなり抱くなどハードルが高すぎるのかな。
というかそもそも、彼の中ではこの結婚に夜の営みは含まれていなかったのでは?
本気で家政婦やメイドとして見てるのでは?
え、でも自分専用のメイドがいたら『お仕置きが必要だね。さあスカートを捲りなさい』とエロ命令したくなるのが男なら持って当たり前の欲望ではないか。
つまり弘光さんもそのつもり…?
目を細めたが、リスのように震えている人にそんなエロ命令できるわけがないと確信する。
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