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勝手に部屋に入ってきて無理矢理洗面所に連れてきた私へ苛立ちの目を向けてくるが、ヘッドホンをずーっとつけている君もいけないよ、と開き直りながらイヤホンの身に起こった悲劇を説明する。
「だからこの洗濯機を動かして取りたいってわけなの。お願い、頼れる人弘さんしかいないでしょ?」
手を組んでウルウルした目つきをすると、弘さんは俯いてしまった。
「…弘さんって何?」
「弘光さんだから弘さん。いいでしょ?私のことは、ひな乃さんでも、呼び捨てでも、おい嫁、とかでもいいよ。好きに呼んで」
俯いたまま反応がないので、「じゃあそっちお願いね」と洗濯機を運ぶ作業に移動する。
せーの、で動かすと、意外にもすぐ動き十分な隙間ができた。
しゃがんで腕を伸ばし見事愛しのイヤホンを掴み取る。
「よかったぁ」
ほら、とイヤホンを見せようとすると、弘さんがいきなり顔を背けた。
本人は誤魔化せたと思ったかもしれないが、私を侮ることなかれ。気づきましたよ気づきましたとも。貴方、今私の胸を見てましたね。
今日着ているブラウスは胸元が開いている。
髪を今日はお団子頭にまとめているから、しゃがんで腕を伸ばした時の谷間が新春大公開祭りを開催していたのだろう。
三十歳未経験とはいえ、君も立派な男よのぅ、と内心笑っていると、あっ!と閃きが降りた。
「弘さん、ちょっとその体重計乗ってみてよ」
「…なんで」
「いいからいいから」
胸を見ていた後ろめたさがあるのか、意外にも従順に体重計に乗ってくれた。
ミシィ…と薄い機械が悲鳴のような音を出すので壊れるんじゃと不安になりながらも数字を覗く。
ふむふむ。三桁か。
ちなみに身長を訊いてみると、192センチだと答えられた。縦にも横にも大きい男だ。
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