妻の閃き

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 弘さんは徐に体重計から降りて私を訝し気に見てきた。  なんなの急に、とその目が言うので、溌溂した口調で言うことにする。 「弘さん。5キロ痩せたら私の片胸揉んでもいいよ」  閃きとはすなわちおっぱい作戦である。  童貞君なら『やりまーすっ!』と飛びつく提案だろうと自信があったのに、彼は目を見開き口をパクパク開閉させたまま動かない。  相当な衝撃を覚えたようだ。 「揉みたいでしょ?」 「も、揉みたくない!」 「うそだぁ、男なら揉みたいよ」 「揉みたくない!だ、だいたい僕はダイエットなんてしないっ!」  上ずった声が洗面所の壁を反響する。  こんなに動揺されるとは思わなかった。ハードルが高すぎたか。 「何も今すぐ運動しろってわけじゃないの。ただ、私が出す料理やお菓子だけを食べてほしいの。ちなみにポテチは一日30グラムのやつ一つだけ」 「難しくないでしょ?」と園児を諭すような気持ちで説明すると、弘さんは顔を真っ赤にさせ、「しないっ!」とはっきり拒否を示し出て行ってしまった。  バッタン、と寝室のドアが乱暴に閉まった音を聞いて、私は失敗したなと肩を落としのだった。
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