妻の閃き

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 だがしかし、これで諦める私ではない。  伝説の調教師をなめてもらっては困る。  翌日。まだ薄暗い早朝。  私はこっそり寝室に侵入した。  寝込みを襲うためではない。  弘さんが常備しているジュースやスナック、お菓子をすべて回収するためだ。  弘さんはベッドの上にいなかった。  まさかまだ起きてるのかとヒヤッとしたが、彼はリビングから移動させた薄型テレビの前で眠っていた。気を失うまでテレビゲームでもしてたのだろうか。  それにしてもその寝方、まるで狩人に撃たれた熊の屍だ。  急に耳栓を欲したくなるほどの鼾をするのでびっくりしたが、すぐ作業に入る。  見つけたジュースなどを片っ端から段ボールに詰め込み台所にある棚に移す。一回の往復では事足りず、結局三往復した。  南京錠を棚の取っ手にかけ施錠し封印したので、弘さんが勝手に食べることはないだろう。  その後私はいつも通り支度をし、スーパーへ働きに出た。  実家に居た時は徒歩十分の近さだったが、引っ越してからはバスを利用している。それがちょっと不便ではあるけど、馴染みの顔ぶれと一緒に働くのはやはり楽しい。  特に仲良くしている同じ品出し係りのみんなには結婚したことを言おうかなと思ったけど、思い留まった。  お前と生活するくらいなら自立する、と早々に離婚される可能性がないわけではないから、弘さんが私に慣れるまで報告はもう少し待とうと思ったのだ。  今朝も彼の常備品を勝手に隠してしまったから、あの嫁こんにゃろー、と憤怒したとしてもおかしくない。
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