妻の閃き

11/11

2661人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
 翌日から弘さんの目の色が変わった気がした。  変わらず部屋に籠っているのだが、トイレやお風呂を利用しに出てくる際の表情が、妙に真剣というか、滾っているというか。 「弘さん最近、なんかあった?」  食事を部屋に運んだ際に、ゲームに没頭している弘さんに訊いてみたが、「別に」しか言ってくれない。  どうしたんだろうなぁと思いつつも、私はいつも通り、パートと家事に勤しんでいた。  そんなある日、軽食にでもと糖分控えめバナナケーキをつくった。  弘さんにもあげようと、ドアをノックしかけた手が止まる。室内から声が聞こえてくるのだ。 「くっ」 「あっ」 「はっ」 「うっ」  苦し気な雄の声を耳にして、弘さんは部屋で何をやってるんだと眉を寄せる。  まさか…一人で大根を扱いているんじゃ、と妙な興味に駆り立てられ、こりゃあ見るしかねぇだろ、とそっとドアを開けて中を覗く。  そして私は瞠目した。いやぁびっくりしました。まさかと思いました。  なんと弘さん、腕立て伏せをしてたんです。  あの大きな体を二本の腕で支えるのはよっぽどきついのか、呻き声を響かせながら。  限界を感じたようで「あっ」とカーペットに倒れこむと、ドスンと床が揺れる。  私はそれを見た後、ゆっくりとドアを閉め、台所に戻った。  渡そうと思ってたバナナケーキを立ったまま食べながら、笑うのを止められない。おっぱいパワーの威力が凄すぎて、笑わずにはいられないのだ。  そうかそうか。弘さん、私のを揉みたいんだね。可愛いじゃないか。がんばれぇ、がんばれよぉ。できるよぉ。  私は弘さんに心の中でエールを送った。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2661人が本棚に入れています
本棚に追加