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北京ダック
それから十日経ったある日曜日のこと。
奥様から連絡があり、夕食にお呼ばれされた。
弘さんにも伝えたのに、いざ出発という時になって突然「僕行かない」と駄々を捏ねるので、しょうがなく一人で訪問することに。
代金は返すからタクシーで来るといいわ、という奥様のご厚意に甘え、人生で初めてタクシーに乗った。
社長宅は洋風スタイルの二階建ての建造物だった。
まさに豪邸。
重そうな銅製の門から私をビビらせてくれた。
ジーンズとチェック柄シャツというカジュアルな装いで来てしまったことを早速後悔させるザ・金持ち感漂う住宅に、ようやく緊張が生まれてくる。
インターホンを押すと奥様が出迎えてくれた。
弘さんの姿がないことに「まあ」と驚いてはいたが、すぐに納得の表情で「こんなことで部屋から出る子じゃないものね」と笑い、私を皆が集まっているというダイニングへ案内してくれる。
白い壁と大きな窓、高い天井。
いくつも並ぶ絵画と数々の抽象的なオブジェ。
中央には縦に長いダイニングテーブル。そこに数々の中華料理が並ぶ。そしてそれを囲うようにして一ノ瀬一家が着席していた。
私に気づくと「ああ、ひな乃さん。よく来たね」と社長が目じりを下げる。
ここに座って、と奥様に手招きされ、奥様と小さい女の子の間の椅子に腰を降ろした。
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