北京ダック

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「ところでひな乃さん。弘光はどうしているかい?」    口いっぱいに頬ぼっていた北京ダックを飲み込んだところで、社長が唐突に尋ねてきた。  お酒を何杯も飲んでいたので、顔が赤い。  というか、子供と私以外、みんないい感じに酔っている。 「元気そうですよ。生活に慣れているのかは私もわからないんですけど」 「何か困ったことはない?」 奥様が心配するような表情を向けてくる。 「今のとこ困ってることはないです」 「部屋に籠ってゲームばっかでしょ」  呆れているような口調で話すお兄さんに顔を向け、「そうですね」と事実なので肯定する。  すると彼は社長と目を合わせてこれ見よがしな溜息を吐いた。 「ゲーム廃人だからねあの人」 「でもレベルが高いですよ弘光さん。指の動きが半端なく速くて、驚かされました」 「ゲームのレベルだけ上げたって無意味なのに。だから弘光は何もできないんだよ。ひな乃さんも呆れちゃってるでしょ」 「いえ…」  ゲームにあれだけ情熱を打ち込み、恐らくは神レベルのスキルがある弘さん。  言葉を変えれば集中力や持続できる力があるってことだ。  たまたまそれがゲームに向かっただけ。  そして今はおっぱいを揉むために運動にも精を出している。  やる気に火がついたら弘さんはいろんなことができる人だ。何もできない人なんかじゃない。  急に部屋の空気が少し淀んだように思った。  弘さんが来たくなかった理由、わかったような気がする。圧倒的に自分が劣勢に追い込まれてる感じがする。  弘さんの話であって、私のことではないはずなのに、私自身がダメージを覚えるのは彼の妻だからなのか。  それとも体改革の育成からくる愛着?  確かにスマホゲームで育てるだらしないおっさんらを我が子のように感じる時がある。  もしかするとそんな感情?
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