北京ダック

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「ちなみに、弘光さんが引きこもってしまった原因ってなんだったんですか?」  答えてくれたのは奥様だった。 「ご近所の女の子に振られちゃったからなのよ」 「えっ」  意外な原因!可愛らしいっちゃあ可愛らしいけど、それだけで十五年は長いだろうとも思ってしまう。 「弘光は昔からこう、ゆっくりというか、おっとりというか。康孝はなんでも一回でこなせちゃう子だったから、よく比べられてたのよ。多分それが限界を超えちゃったのかもしれないわ」 「どういうことですか?」 「その女の子、康孝が好きだからって理由で弘光を振っちゃったのよ」  ふんっ、とお兄さんが鼻で笑う。 「そんな下らない理由で引きこもって、あいつが要求する通りに世話なんてしちゃうから味を占めたんだよ。母さんは甘すぎたんだって」  奥様が小さく息を吐きだした。 「私達もね、今まで何度も更生させようといろいろ試したんだけどね。どれも上手くいかなかったのよ。何をやらせても続かなくてね…」 「ああやって非現実的なものに集中して部屋に籠ってたせいで、弘光自身も意志の弱い人間になってしまったんだよ。あの子は自分でも自分を何もできない人だと思い込んでる。息子ながら、三十にもなって情けない」  社長も重そうな溜息を吐く。  一ノ瀬一家の溜息でもっと空気が淀み重くなる。  酸素ボンベください。新鮮な空気を吸わせてください。
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