北京ダック

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「でも弘光さん、最近ダイエット始めたんですよ?もう二週間くらい続いてるんです」  反論したい気持ちが動いてそう告げると皆が目を丸める。  四歳の長女まで驚いてるのだから、よっぽどのことを口にしたのかもしれない。 「まあ…。ひな乃さんが提案したの?」 「はい」 「すごいね、どうやって説き伏せたの?」  身を乗り出したお兄さんに、私は自然な笑顔を意識しつつ「それは、まあ、普通に」と答える。  そして心で苦笑する。  おっぱい作戦を行使したと正直に言ってしまったらドン引きされることは私だってわかっている。  いくらこちらの事情とはいえ痴女との結婚は社会的立場を失う、とか言って離婚させられても困る。  私はまだお金に困らない生活を手放したくない。 「普通にって…。ダイエットしろってみんな口を酸っぱくして言ってたのに、全く動こうとしなかったんだよ。言いすぎると逆ギレして暴れるし物壊すし。子供も怖がってて」  そりゃああの大きな体で暴れたら怖いだろう。  妻という立場のせいか申し訳なくなって子供たちへ労わるような目を向けた。 「まあでもひな乃さん。弘光のことだから続かないと思うよ」 「え?」 「あまりあの子に期待しない方がいい。期待するといつも裏切られる」 「少しできただけでも頑張ったわよ」  あれ、と違和感を覚える。どうして誰も弘さんを信じないんだろうって。家族なのに。
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